洒落怖全話

闇の深さを知った夜

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学生の頃、夏に男4人と女1人の計5人でとあるホテルの廃屋へ「肝試し」に行った。
そのホテルの場所は別荘地のような、周りを森に囲まれた場所に建っていたので、夜11時過ぎについたときはあたりに人の気配は全くなかった。


ホテルの構造は地上3階、地下1階だったように思う。
はじめは2人1組くらいの少数でそれぞれ回ろうかと言っていたが、廃屋を目の前にして全員怖気づいてしまった。
そこで全員で同じコースを回ることとし、まずは上を目指し、その後地下を回って帰ろうと確認した。
僕は5人の中で一番大きい懐中電灯を持っていたので、(ものすごくイヤだったが)先頭を歩くことになった。


ロビーにいるときはまだ空間がある分、気持ちに余裕があったが、各部屋へ続く廊下を通るときはどこにも逃げ場が無いような気がしてすごく不安を覚えた。


友人の1人が面白半分に部屋を開けて中をライトで照らして遊んでいたが、特別なものもなく、変なことも起きなかった。


ただ、カギがかかって開かない部屋がいくつかあり、こういう時は(なぜ開かないのだろうとか、いろいろ考えてしまって)かえって開かないことのほうが恐怖感を覚えるのだと思った。


このホテルは廃屋となってからどのくらい経っているのだろうか。


建物自体はわりとしっかりとしていたように思う。床がギシギシいったり、天井が落ちかけているようなことはなかったが、窓ガラスはところどころ割れており、廊下にも破片が落ちていた。


物音一つしない廃屋の中でガラスの破片を踏む音はとても大きく聞こえ、その音が何か変なものをおびき寄せはしないだろうかと不安になった。

2階へあがったところで女の子が壁に異様なシミがあるのを見つけた。


「これって、ひょとして...血...?」
彼女が壁のシミを見つけたとき、先頭にいた僕は床のガラスの破片の中に小さな丸い玉のようなものがいくつも落ちていることに気づいた。


気の小さい僕は正面を直視することができず、足元だけを見ていたのだ。
この小さな玉は、エアガンなどに使うBB弾じゃないだろうか。よく見れば床のあちこちにいくつも落ちている。ということは、日中は誰かがこの廃屋へ来ているんじゃないか。


だとしたらそれはペイント弾でついたシミだろう。
僕がそのことを言おうとしたとき、シミにおびえて後ずさりした彼女が何かにつまづいて尻もちをついた。


そのとき
「ガシャガシャガシャ!」
という金属音が建物全体に大きく鳴り響いた。
ブービートラップだった。


僕の予想は正しかった。誰かがサバイバルゲームの舞台にこのホテルを利用していたのだろう。
しかし、尻もちをついた彼女はこの音に恐怖してしまい、完全に腰が抜けてしまっていた。
もう少し早く気づいてそのことを伝えてあげればよかった。
彼女には悪いことをしたと思う。


彼女は一緒に来ていた彼氏に連れられ、先に車へ戻っていった。
残った3人は3階へ上がり、そして地下へ入った。
昼間は人が入ることがあるという事実を知り、僕達はいくらか気持ちが楽になった。各部屋のドアというドアを全て開けて中を確かめてみるという余裕ができていた。


地下の部屋は倉庫やプライベートルームなどが並び、一般の客室はなかった。
おそらく半分ほどさしかかったところだと思う。
そこに「ボイラー室」と書かれている部屋があった。
ぼくはその部屋の扉に張り紙がされているのを見た。

「子どもが出てくるので開けないでください」

僕達3人は我先にと逃げた。
車に戻って冷静になると、あの張り紙もサバイバルゲームをやっている人たちのイタズラなのだろうと思った。イヤ、逃げる前から察しはついていた。
でもあのときは(わかっていても)逃げたくなった。

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