ほん怖全話

のぞき

この記事は約2分で読めます。

俺が中学生の頃の話。


夜9時ごろ、自宅のトイレで大をしてたのね。


ふっと横の窓を見上げると、変な顔があった。


その窓は、家の外(裏側の、軽自動車がやっと一台通れる程度の路地)
に直接面している窓。


ガラスに顔をべったりとくっつけている感じで、鼻や頬が押し付けられて平べったくなってた。


一瞬髪の毛が逆立ったんだけど、すぐに、(ああ、これはのぞきか?)と思い直した。

当時姉が高校生だったので、トイレをのぞく奴がいても不思議はない。


外に面したトイレの窓なので、当然すりガラス。


だから中に入っている人間(俺)が男なのか女なのかよくわからず、ぴったり顔をつけてのぞこうとしたのだと感じた。


それなら怒鳴りつけるなり何なりすればよかったのだろうが、一瞬腰を抜かしそうになった後だったので、なんだかちょっと行動力がなくなっていて、そのままそーっとトイレを出た。


俺が振り返っても動き出しても、その「顔」はうろたえるようすもなく、そのままトイレの中を必死でのぞき続けているようだった。


ぴったりガラスに押しつけられているので、異様に大きな顔にも見えた。太った男のようだった。


トイレの外に出てから、しかしこのままにしといたら姉貴がかわいそうだなあと思い直した。


どんな奴なのか顔だけでも見といてやろうと、家族には何も言わずにサンダルを履いて外に出て、家の裏に回った。


路地に出て、トイレの窓のところを見た。


人影はない。そりゃもう逃げてるわな。


ちょっと苦笑しかけて、すぐにあることに気づいて俺はもう一度ぞっとした。


トイレの窓の外には、ドロボウ除けのステンレスの面格子が取り付けられていたんだ。


面格子と窓ガラスとの距離は5センチ足らず。

とてもじゃないが人間が頭を突っ込める隙間はないんだ。


俺はあわてて家の中に戻り、その夜は布団をかぶって寝た。


あのガラスに押し付けられた肉厚な顔のイメージが、しばらく頭から離れなかった。

コメント