洒落怖動画全話

階段の二段目

洒落怖
この記事は約3分で読めます。

得意先が移転し、

お祝いをかねて訪れた。

そこは1階が店舗で2階が事務所。

とりあえず事務所で話を聞くからと、

店舗の奥の給湯室から伸びる階段で2階にあがる。

しかしこの階段、何か違和感がある。

なぜか下から2段目だけが、

幅が狭く段が高い。

事務所に上がり話も盛り上がり、

帰り際2段目の事はすっかり頭から消え、

危うく足を挫きそうになる。

すると、

「階段危ないから気をつけて」

と社長の声。

先に言えよ。

「大丈夫ですからー」

とお愛想をして店を出る。

この会社、業績は良くないが、

社長の人柄と社員のがんばりで

何とかやりくりしている程度。

しかし、この新しい移転先は、

昔から何をやってもうまく行かない場所。

以前は大手ディーラーだったが、

やはり上手く行かず、

格安で賃貸されている曰く有の場所であった。

数ヶ月が過ぎ、

定例でその店を訪れると社長が居ない。

奥さんに訳を聞くと、

事故で入院中との事。

とっさに浮かんだのが自殺?

しかし間違っても

そんな事を口に出すわけもいかず、

病院の場所を聞くと、

「ここじゃ何だから事務所へどうぞ」

と2階に。

奥さんもやはり自殺未遂を疑っている様子。

帰りに、やはり2段目で転びそうになる。

奥さんも

「ココ、分かっててもつまずくのよね。

なんでココだけ変な作りなんだろ」

と笑っていた。

病院で社長と対面。

怪我は酷く片目は失明寸前だが、

思いのほか元気で、

只の事故だったのかと思うほど明るく前向きだった。

事故の事を聞くと、単独事故で、

時速60~80kで高速橋脚コンクリに、

ほぼ正面から衝突したのだそうだ。

何故正面から?

誰でもそう思う。

俺も思った。

聞くか迷っていると社長の方から、

「自殺する気なんかない。

でも、事故の前後の記憶がない。

店の事をぼんやり考えながら、

運転していたんだと思う」

数ヶ月で退院も出来、

復帰が出来ると言うことなので、

「退院後また店に伺います」

と約束をして別れた。

社長が入院している数ヶ月で業績は悪くなり、

「あの店危ないぞ」

と噂を聞くまでになった。

それから暫らくして、

社長が亡くなったと奥さんから電話がある。

葬儀などは既に済ませており、

店をたたむ事にしたから、

色々相談をしたいから店に来て欲しいと呼ばれる。

事務所で話を聞く。

亡くなったのは、

奥さんの車で病院を抜け出し店に向かう途中、

今度は電信柱に激突したのだと言う。

なぜ急に店に向かったのかも分からないし、

どうしてまた事故にあったのかも分からない。

ホントに事故なのかも分からない。

「ひょっとして自殺だったのかも」

と一気にしゃべり泣き崩れた。

俺は正直自殺だと思った。

泣き崩れる奥さんを前にして何も言えず、

閉店に向けての処理の方法や手続き関係を説明し、

事務所の階段を降りると、

やはり下から2段目で転びそうになり、

胸に挿していたボールペンを落っことした。

ペンを拾おうと手を伸ばし、

なにげに1段目と2段目の間を見ると、

一瞬、ほんの一瞬だけど、片目の腫上がった、

事故後に病院で見た社長の顔があった。

そして腫上がった手が、

サッと引っ込むところも。

その後店は閉店し別の店になったが、

上手く行かず直ぐに閉店となり、以降空き家のまま。

曰くのある場所には、

それなりの訳が在るのだと実感した。

コメント