「先輩、何か怖い話知りませんか?」
「う~ん、怖いというかちょっと悲しい話なら・・・」
Sさんは仲間から渓流釣りに誘われた。
そこは釣り仲間でも有名な穴場で旅館も中々予約が取れない場所だった為、
すぐにOKした。
当日、仲間が仕事で来れなくなってしまいSさん一人になってしまったが、
滅多に行ける場所ではない為一人で行くことにした。
旅館に到着し、さっそく荷をほどくとSさんは釣りに出かけた。
噂通り、次々と釣れる魚に、
「帰ったら、来れなかった連中におもいっきり自慢してやろう」
と、そんな事を考えながら、夢中になって釣りを楽しんでいると、
誰かに見られているような感じがした。
視線を感じる方向を見ると、着物を着た少女が岩の上に独りぽつんと座ってこちらを見ていた。
「こんな山奥に独りでいるなんて変だな?」
そう思いながら、Sさんは少女に話しかけてみた。しかし少女は黙ってこちらを見ているだけ。
多少気味が悪かったが、陽も高く釣りに夢中になっていたSさんは旅館の娘だろうと思い、
釣りを続ける事にした。
徐々に陽が傾いて、十分に釣りを満喫したSさんは旅館に戻った。
釣った魚を調理してもらい、それを肴に酒を飲んでゆっくりとくつろいでいた。
しばらくすると、誰かに見られている感じがした。
視線の方向を辿ると、襖の隙間から昼間の少女がこちらを見ているのが判った。
「ああ、やっぱり旅館の娘だったのか」
そう思ったSさんは釣りの途中で食べるつもりだったお菓子を取り出して、
少女を部屋に招き入れた。
一人で退屈していた所だったし、話相手にでも・・・と、そう思ったのだ。
少女は部屋に入りSさんから貰ったお菓子を喜んで食べた。
「はて、この娘は?」
少女だと思っていた娘だが、実際には16歳だという事がわかった。
話しているうちに少女が多少知恵遅れで、それが実際の年齢よりも幼く見えるのだと判った。
肌も白く美しい娘なのだが、何となくそれが不憫にも思え少女を喜ばせようと、
面白おかしい話をしてあげた。
少女もSさんの話が気にいったのか、もっともっとと話をせがんだ。
どれ位時間がたっただろうか・・・Sさんもかなり酔っていた。
少女が足を崩した瞬間、着物の裾から白いすらりとした脚が見えた。
Sさんはドキッとして、あわてて少女の顔を見た。
そこには、あのあどけない少女の表情ではなく、女の色気を備えた娘の顔があった。
口元からのぞく真っ赤な舌が艶かしかった。そう、まるでSさんを誘っているような・・・・。
気がつくとSさんは娘を押し倒していた。不思議な事に娘は抵抗しなかった。
そして、「アノ時」になって突然娘が暴れ出した。急に豹変した態度にSさんは何故か
娘の首を締め口を塞いだ。
この時のSさんはまさしく何かに取り憑かれていたのかもしれない。
そして、行為が終わろうとした時だった。娘が「ごぼっごぼっ」という濁った音と共に、
血を吐いた。
やっとそこでSさんは正気に戻った。両手にべったりとついた血に悲鳴を上げ、
自分の犯した罪の大きさに放心状態になってしまった。
すぐに部屋に女将がやってきた。それに気づいたSさんが部屋を見渡すと、
そこは何もない、普通の部屋だった。
女将はすぐに何かあったのを察したらしくこう言った。
「また、あの娘がでたんですね・・・」
Sさんは女将に自分の体験した事を包み隠さず話した。
女将もSさんに何があったのかを話してくれた。内容はこうだった。
娘はこの旅館の、つまり女将の一人娘で知恵遅れの美しい娘だった。
数年前、バイトの若い男が娘を部屋に連れ込み襲った。その時に、
Sさんと同じように首を締めて殺してしまったというのだ。
そして、殺されたのがこの部屋だと・・・。
「その時に女将が言ったんだよ。「娘は死んでからも同じことを何度も何度も繰り返しているんです」って」
「可哀想な話ですね。でも、よく出来た作り話ですね」
「そう思うか?」
「だってそうでしょう?」
「ほんとの話だよ、これ」
「え~、嘘でしょ」
「ほんとだって。今でもその時についた血がとれてないような気がしてな・・・」
そう言って先輩はごしごしと何度も何度も手を洗い流した。
着物を着た少女
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