じわ怖全話

卵の殻の中

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知り合いの警察関係者に聞いた話です。

昔若い女性の部屋で、男のバラバラ死体が見つかったやつ。

その話です。

ああ、別にスプラッタな話しようってわけじゃありません。

状況はそうですけど(笑)

その女性、仮に英子さんとしておきます。

男の人は一樹さんということで話進めますね。

2人はそれぞれの母親が幼なじみだったので、
やっぱり幼なじみってことになりますかね。

小中高と学校が同じで、高校1年の時、
一樹さんの友人の坂木さんと彼女がつきあいはじめました。


そうして3人そろって同じ大学に進学して、
その半年目に坂木さんが亡くなりました。

デート中にダムに落ちたんです。

2人きりの時で目撃者がいなかったんですが、
それは結局事故として扱われました。

英子さんがショックでかなり精神的にやられてしまって、
事情聴取とかできなかったせいもあったようですけど。

彼女は家から1歩も出なくなって、
大学も退学。

風呂とかトイレとか食事とか、
最低限の日常生活に支障はないけど、
会話は成り立たないし、
無理に何かさせようとすると
大声をあげて暴れ出したりする。

父親は病院にかかることを許さず、
それでいて英子さんのいる2階へは近づこうとしない。

出歩かないせいか太って体格の良くなっていく英子さんに、
母親の手だけでは負えない時が出てきて、
一樹さんが世話を手伝うようになったんです。

英子さんは以前から手先が器用で、
細かい手芸を得意としていたそうです。

家に閉じこもるようになってからは、
いつも卵細工をつくっていたそうです。

卵に穴をあけて中身を抜いてよく洗って、
細かい布きれをボンドで張り付ける。

それに紐をつけて、
カーテンレールに吊す。

カーテンが閉められなくなるので、
それをお母さんが毎日部屋の天井に移して画鋲で留める。

部屋の天井がいろんな柄の卵に埋め尽くされていきました。

そんなある日、
お母さんは英子さんの妊娠に気づきました。

そして、
一樹さんのお母さんに真っ先に相談しました。

お母さんから話を聞いた一樹さんは家を飛び出して、
友人の家を泊まり歩くようになりました。

英子さんを妊娠させたのは一樹さんだったんです。

ある日、友人の1人が、
たびたび泊まりに来る一樹さんからその話を聞き出しました。

彼はその話をしてすぐ、

「やっぱりちゃんと責任をとらなくてはいけない。
けじめをつける」

と言い残し、
友人宅を出て行きました。

しかしそれが、
生きている彼を見た最後の証言となったのです。

翌日、
彼は英子さんの部屋でバラバラにされて見つかりました。

見つけたのは英子さんのお母さんでした。

はじめそれが何かわからなかったそうです。

部屋の隅では英子さんが眠っていました。

そして部屋中に、
天井にぶら下げていたはずの卵の殻が落ちていたんです。

ひどい臭いがしていたそうです。

けれど英子さんはすやすやと眠っていたし、
臭いの元も見あたらなかった。

お母さんは、
英子さんに女性の毎月の行事が始まったためだろう、と
見当をつけました。

血の臭いに似ていたからです。

妊娠じゃなかったんだとほっとして、
とりあえず空気を入れ替えようと思っても、
床には一面、割れて崩れた丸い殻。

布にくるまれた何百もの卵。

お母さんは窓への道をつくろうと、
足で卵をよけようとして、
その異様な重さに驚きました。

動かしたひょうしに強くなった異臭。

その重さの妙な感じ。

恐る恐るしゃがみこんで、
近くのそれらを観察すると、
彼女は布切れの間からのぞく赤黒いモノに気づきました。

昔、大怪我をした時に見た、
開いた傷口そっくりの色。

お母さんは悲鳴を上げました。

でも、お父さんは1階にいたけれど、
声もかけてきませんでした。

お母さんは気持ち悪いのを我慢して、
足で重たい卵をよけて英子さんのところまで行き、
無理矢理起こして部屋から連れ出しました。

英子さんは嫌がって卵を踏みつぶしたりしましたが、
火事場の馬鹿力が作用したのか、
小柄なお母さんが英子さんを部屋から引きずり出し、
1階へ下ろしました。

英子さんの姿にお父さんはそっぽを向いて、
寝室に引っ込んでしまいました。

お母さんは1人でやっとのこと英子さんを居間に落ち着かせ、
それから警察に電話をかけました。

もちろんお母さんは
卵の中身が何かわかっていませんでした。

けれど、近所の人が蛇が出たと言って、
110番しておまわりさんを呼んだことがあったので、
それよりは重大時だと思って、
警察にかけたのだそうです。

やってきたおまわりさんは、
英子さんに踏みつぶされた卵の中に、
人間の目玉を見つけました。

そこから大騒ぎになったのです。

もうおわかりだと思いますが、
卵の中身は一樹さんでした。

彼が、何百、千に近いくらい細かくバラバラにされて、
卵の殻の中に納められていたのです。

DNA鑑定で彼だと確認されました。

遺体の多くに生体反応が認められました。

彼は生きたままバラバラにされたのです。

しかも、刃物を使われた痕跡は見あたらない。

引きちぎられ、折られ粉々にされていたんです。

そのバラバラのかけらが、
ご丁寧にも卵の殻の中に納められ、
布切れで飾られていたんです。

英子さんからはなんの証言も得られませんでした。

ご両親もなんの物音も聞いていませんでした。

結局、英子さんが無理矢理妊娠させられたことを恨んで、
一樹さんを殺したのだろうということになりました。

けれど不可解な点が多くあります。

警察も未だその謎を解いていません。

というより、解く気もありません。

卵の殻にあけられた穴より大きな骨片が、
どうやって中に納められたのか。

どれも穴を布でふさがれていたのに、
前日の晩に彼が目撃されている。

たった一晩の作業とはとても思えないこと。

そして、粉々に引き裂かれた現場が、
どこにもみつからなかったこと。

何より、
道具なしに人力で人を引き裂くことができるのか。

それも粉々に。

できるわけがない。

英子さんは今は精神病院にいるそうです。

おなかの子供がその後どうなったのかは聞いていません。

一樹さんが何にどのようにして殺され、
いかなる方法で卵の中に入れられたのか。

解答はありません。

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