洒落怖全話

父親が背負った母親

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うまくいっていない夫婦とまだ三歳くらいの小さい男の子がいました。
表面上は仲のいい幸せな家庭にみえました。
というのも両親とも子供のことは大切におもっていたからです。


ある日、男の子が寝静まったあと、父親と母親はいつものように口論になりました。
離婚しようと決めていた父と母、些細なことから始まった口論はやがて男の子の親権問題に発展しました。


お互いを憎んでいた二人ですが、やはり子供は自分で引き取りたいようで折り合いがつかないことにカッとなった父親は思い余って母親を殺してしまいました。


このままではまずいと思った父親は母親の死体を山中に埋めることにしたのですが、帰り道、とんでもないことをしてしまったと車の窓に頭を何回もぶつけて自分のした事を悔やみました。


あくる日の朝、男の子には「ママはおばあちゃんちにいくことになったよ」と嘘をついたのですが、ママと離れ離れになった寂しそうな子供を見て父親はやはり自分のしたことを激しく後悔しました。


寂しそうな子供を見て後悔する。幾日かそんな日が続きました。
もともと口数の少ない子供が更に黙りこくってしまうことをおそれ、更には自責の念にも駆られ、父親は子供とよく遊ぶようになりました。

ある日、ドライブの帰りに父親はふと思いつたかのように母親を埋めた山道を通りました。殺してしまった母親に対する決別のためなのか何かはわかりませんがそこを通らずにはいられなかったのです。


しかし、何も知らないでとなりでスヤスヤ眠るかわいい子供を見るとこのまま死んでしまおうかと思うほど心と体がずっしりと重くなりました。


ところがどうでしょう、その次の日の朝から、男の子は口数は少ないままですが以前のような明るい子に戻ったのです。


体のだるさは抜けないのですが、それをみると父親は幾分心が安らぐのでした。
重い体を必死に動かし、父親はせっせと働きました。


ずっと重いままの体を不思議に思いはしましたが、そんなことは二の次だと自分に言い聞かせました。
疲れた体を子供の笑顔で癒す。今度はそんな日々が続きました。


自分だけでも育てていける、やがて父親はそんな風な自身を持つようになりました。

そしてそんなある日、父親は子供にこんなことを聞いたのです
「ボクはお母さんがいなくても平気だよね?」
すると子供は無邪気に笑ってこう答えました


「何言ってるの、ママはパパがいつも背負ってるじゃん」

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